クリスマスイブのイブのこと①

12月23日、クリスマスイブのイブに僕は元彼女と会う約束をしていた。この元彼女のことを、まず説明する必要があると思うので、これからつらつら書いていく。

 

この元彼女(この先はハルと呼ぶことにする)は僕が学生時代に付き合っていた年上の彼女である。4歳上だったハルは、出会った時はもう大手の企業に就職が決まっている大学4年生だった。

出会いは電車の中で僕が倒れたところから始まる。当時、学生の僕はやっぱり今と同じで体調を崩しがちだった。その日も多分、熱があって満員電車に揺られていたんだと思う。あんまり覚えてないけど、その中でドアに激突同然でそのまま倒れた。覚えてるのは焦ったような何か言ってる声で、目が覚めたら病院だった。ベッド脇には見たことない女の人がいて、僕が目が覚めたとわかると「気分、どうですか?」と聞いてきた。それがハルとの出会いだった。確か紺色のダッフルコートに白のマフラーをしていて、なんだか綺麗な人だなって印象だった。ハルは僕が倒れてから今までつきっきりでいてくれたらしい。なんて良い人、というのが印象だった。そして当たり前にじゃあお礼がしたいから連絡先教えてください、となり、連絡先を交換した。ハルは最初頑なに断ったしそそくさと帰ろうとしていたけれど、でもせめて、と僕が無理矢理引き止めて無理矢理連絡先を交換した、に近いかもしれない。別にこの時下心はなかった。ただ単にお礼をしたかっただけだ。

数日メールのやりとりをして、会う約束を取り付けた時にはちょっとは下心はあったかもしれない。セックスできたらなあ、美人だったし。なんて、多分そんなこと考えてた。下半身で生きてた部分は否めない。会う日、新宿の東口で待ち合わせをしていた。確か金曜日で、人がたくさんいてハルを見つけきれなくて電話でお互いやりとりをして、やっと再会した。「こんにちは」「こんにちは」なんてぎこちなく挨拶して、ハルは「本当に大丈夫だったんですよ」と僕に言った。多分、お礼のことだと思う。僕は「気持ちなので受け取ってください、それくらい僕は嬉しかったし助かったんですよ」と言いくるめて、2人で歩き始めた。11月くらいだった。別に話すこととかないし、なにを話せば良いかわからなかったから、ハルの大学の話とか、僕の学校のこととか、そういう話しかしなかったと思う。お礼といってもハルのリクエストでケーキだったから、どっかのカフェに入って2人でケーキを食べて、本当に2時間くらいでその時間は終わった。あっという間だった。緊張してたし、頭の中から下心はどっか消えていた。なんだかハルが、そういうこととはかけ離れた感じの女性だったから。

それで2人でまた駅へ向かう道で、ちょっとした事件は起こった。いつもは大人しいはずのホームレスのおじさんが、ハルの腕を突然掴んだ。ハルはすんごいびっくりしてて動けなくて、僕がとっさにハルの腕を引っ張ったら手は簡単に離れたけど、ハルはびっくりしすぎてちょっと震えてた。早歩きでハルの腕を引っ張ってその場から急いで離れた。振り向いたらハルは泣いてて「ええ、泣いたどうしよう」って、これ正直な僕の気持ちね。ハルは下向いてボロボロ泣いてるしなにも言わないし、とりあえず僕はハルの手をさすった。泣き止むまでずっとさすってた。抱きしめたらロマンチックだったんだろうけど、なんかそうもいかないじゃん。別に友達でもなんでもないし、そんなの許されるのキムタクくらいなわけだよ。僕じゃ許されないわけ。多分30分くらいだったかな。ハルの顔は涙の筋の部分だけ赤くなっちゃってて、なんだか痛々しかった。しばらくしたらハルが「もう大丈夫です」って言って乱暴に涙の跡を拭って、僕はハルの手を触ったまま「怖かったね」ってあやすように言ったらまた泣いちゃって、ハルは「怖かった〜〜」って駄々こねる子供みたいになっちゃって、僕はなんだか少し笑っちゃったんだよね。こんな4歳も年上の、もう社会人になるお姉さんがすごい泣いてんの、子供みたいに。なんか可愛いなって。まあその日はハルの集団が危なくなっちゃったし、グズグズしてたハルの手を引いて、電車に無理矢理押し込んだんだよね、確か、うる覚えだけど確かまだ泣いてた気がする。次の日、ハルからすいませんでしたとの内容の連絡がきて、いえいえ、みたいなやり取りをして、なんでか忘れたけどまた会う約束をして、そういうことを繰り返して、なんだかたまに遊ぶ友達みたいな感じになってきた。