なんだこれ

クリスマスのイルミネーションが燦然とする12月に、君は死んだ。

新宿ルミネ前、最近新しい建物が出来たその目の前の交差点で、君は赤信号を堂々と渡り、僕の前で白いスポーツカーにはねられて死んだ。あんまり赤信号を堂々と渡るものだから、君のラストランウェイを誰もがぼうっと眺めていた。例に漏れず、僕も。黒いヒールを軽快に鳴らして、黒いスカートを風になびかせて、君は最後空に飛び上がるようにして絶命したけれど、その瞬間がとても長く感じた。さながらタルコフスキーの映画のようだった。

「私ね、あなたの最後の女になりたいの」

君の口癖だったその言葉通り、僕の中で最後の女になりそうだよ。別に死ななくたって僕の中では最後の女だった。そう伝えたじゃないか。でも多分言葉だけじゃ満足できなかったんだね、君のことだから。世界の全てを疑ぐりかかってる君のことだから。なんて皮肉で美しいんだろう。

地面に寝転ぶ君の背中には赤い翼が生えていて、僕は思わず駆け寄って君を抱きしめたけれど、不思議だね、本当に軽かった。君の魂はもうどこにもいないんだね。飛び立ってしまったんだね。クリスマスを待たずにして、君はサンタクロースに連れていかれてしまったんだ。嫌だなあ、本当に。君のいない世界なんて嫌だなあ。道路の真ん中、君の亡骸を抱えながら泣き叫ぶ僕は、君を失った悲しみなんてなくて、ただ君のいないこれからのことを絶望して、泣いたんだ。勘違いしないでね。君がいなくなって悲しいなんて思わないよ。でも君は間違いなく僕の中で最後の女だ。さようなら、僕のドロシー。