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結婚願望

僕には兄がいる。会社の関係で地方にいる兄とはたまに連絡を取り合う。それはお互いの生存確認だったりするのだが、昨日はもっぱら無駄話だった。

僕にも兄にも本当の親はおらず、僕と兄も血が繋がってはいない。ただお互い10歳に満たない頃に兄弟になったため、血の繋がりはなくとも共に過ごした記憶や景色、寒いこといえば絆はきちんと兄弟だ、と僕は思っている。

話したことはもっぱら家族についてだった。兄には結婚を考えている彼女がいるのだが、なかなか結婚に踏み切れない、と。兄は僕と違って実の両親を知っている。それも顔を合わせたのは学生時代だと言う。僕はそのことを知らなかった。当時はお金の余裕がなく、兄を育てることをできなかった両親が、泣きながら立派に育った兄に謝り倒して来たという。お金がないという理由で捨てられたのに今更泣いて謝るなんて、と兄はとても理不尽に思ったらしいのだが、今になって気持ちがわかるようになって来た、と声細々に語った。働いてわかる稼ぐことの難しさ、彼女への愛情も尽きぬにいられるだろうか、2人できちんと生活して子供ができたりときにきちんと育てられるだろうか。兄は心配性なところがあるから、そんなことをボソボソ話していた。

僕にしてみれば、兄がとても羨ましかった。僕の親はいない、生きているのかもわからない。だからもちろん会ったことすらない。だから僕はもし愛する人ができてもその人との間に子供を作ることがとても怖いのだ。もし僕の親が病気持ちだったら、犯罪者だったら、わからぬままで自分の分身のような存在を、愛する人に産んでもらうのが怖いのだ。

でもそんなことで兄を羨まむのも間違ってるのはわかってるので、僕は静かにうんうん、と相槌をあって聞いていた。

だいたい話し終えて、兄はどうすればいい?と僕に答えを求めた。僕は、今僕に言ったこと彼女に言えば?と兄に告げた。ああ、そうだね。兄は少しびっくりしたように答えて、じゃあね、と電話を切った。

まだ熱があるんだけどな、と思いながら僕はケータイを放った。兄は勝手な人だ、でも僕はすごく好きな人間だ。幸せになってね、僕の気持ちはこの1つだけだ。